生物多様性ってなんだろう? ~自然保護のルールとマナーを学ぼう!~
レポート
「生物多様性」の基本についての講義で、特に「遺伝的多様性」について学びました。
午後は、佐鳴湖西岸の公園と里山を2時間かけて歩き、外来種や園芸品種、在来種の植物を観察しながら、手を入れる際のポイントや配慮するべき点について、実地で学びました。
当日のスケジュール
10:30 講義①「自然保護のTPOと生物多様性」
講義②「遺伝的多様性について理解を深めよう」
講師:泉健司さん(ビオトープガーデン提唱者、植物生態コンサルタント、自然造形作家)
12:20 ~昼休み~
13:20 フィールド見学 佐鳴湖西岸を歩こう!15:50 北岸事務所に戻ってふりかえり、アンケート記入
16:00 終了・解散
実施内容
午前中は泉健司先生の講義。
「自然保護のTPO」では、生態系との新しい調和、生物多様性の三つのレベル(種、遺伝子、生態系)、生物多様性に考慮した自然回復の方法を学びました。
都市/里山/奥山の自然の回復や保全手法について、
都市:失われた野生種は園芸品種で代用、場合によっては帰化植物も利用。
奥山:人為的影響を極力減らし、「何も足さない、なにも引かない」
里山:残っている生物をできるだけ活かし、園芸種は自然環境に負荷の少ないものを。
里山で、勢いの強すぎる帰化植物を抜いて、様々な植物を「見せる」工夫の紹介もありました。
目に見えくい「遺伝的多様性」については、2種のメダカ(キタノメダカとミナミメダカ)を例に、雑種ができると子どもが産めない→2種を混ぜると結果的に共倒れになってしまう、と解説。
生き物は「同じ種」であっても、地域によって遺伝子が違うので、違う地域の生き物を持ち込むと、本来守るべき地域の遺伝的多様性が失われてしまう。
なぜ「地域ごとの遺伝子の違い」が生まれるのか?少しずつ取り出して増やす場合、突然変異がある場合、障壁がある場合など、様々な要因でグループごとの違いが生まれていくことを説明しました。
植物をタネや苗で増やす場合は、一つの個体からや同時に選ぶのでなく、たくさんの個体から時期をずらして採るなど、多様性が保たれるように注意すべきポイントを話しました。
この講座、普通は3日ぐらいかける内容を、かなり圧縮してお伝えしたので、全部を理解するのは難しかったかもしれませんが、自然保護には「遺伝的多様性が大事!配慮が必要!!」というメッセージは伝わったのでないかと思います。
午後は佐鳴湖公園を歩きながら、泉先生と一緒に外来種、園芸品種、在来種の混ざる植栽を見て行きました。
草地ではトラ刈りすることで、様々な草丈を利用する昆虫の多様性が産みだされること、
ヒメジョオン、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウといった外来種を抜いて、
キンエノコロやヨモギといった在来種を遺すこと。(選択的除草)
鳥や虫が運んできて芽を出したイヌビワ、アケビ、エノキ、ムクノキ、サルトリイバラといった植物を活かすことで、鳥や虫のやってくる庭が作れるということ。
里山の散策路では、ヌマダイコンにヒラヒラと飛んで来る蝶のアサギマダラを見ながら、アサギマダラが蜜を吸いに来る性質を利用した庭づくりをしている都市公園の紹介がありました。
参考:アサギマダラを呼ぼう!NECネイチャークエスト in 芝公園
また、ゾーンを区切って既存の植物の“見せ方”を工夫することで、「シダの谷」「熱帯性のタケ」「チョウの訪れる草地」…とより魅力的な里山に見せられるという提案もありました。
この時期の佐鳴湖畔では、タイアザミやシロバナサクラタデ、ヨメナといった可愛らしい野生の花も見られ、現状ではミゾソバが目立つ湿地も手入れ次第で様々な花が見られるようになって、生物多様性もアップするとのこと。
ここの里山は、佐鳴湖里山楽校や地元の方々が地道に活動されています。丁寧な保全や手入れを実践するには、行政だけでなく多くの市民の力も欠かせません。
地元で長年活動されている鈴木満帆先生には、佐鳴湖の自然について解説していただきました。
帰り道ではツルセンダングサという新参の外来植物も発見。湖周辺の道路は、浚渫した泥土を使っており、一見「自然」に見えるけれど実は植栽と外来種ばかりということも見えてきました。斜面を覆い尽くすソライロアサガオの勢いもすごかったですね。
公園と里山とを歩いて、様々な視点から自然を見て、考える時間となりました。
午前~午後の長丁場でしたが、ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました!
このイベントで得られたこと
・参加者の意識や知識、興味のレベルを確認でき、今後の取り組みの内容の参考となった。
・実施団体のミュミュと協力団体の若草との連携が図れ、信頼関係を築くことができた。
・参加者や実施団体と協力団体のネットワーク構築につながった。
・地域の資源を引き出しながら学べた。また、その魅力に参加者も実施団体も気づくことができた。
参加者の声
- 佐鳴湖という身近な場所にこんなにも外来の植物が多いことを知り、日常生活の何気ない行動も、もしかしたら外来植物を広げているかもしれないと思うとヒヤっとしました。でも、外来植物が100%悪いかというと、生き物にとっては必要だったり、役に立っているものもある面を教えていただけて、とても勉強になりました。(30代女性)
- 山奥の教育施設で「植物を持って帰らないように」という注意書きを何度も目にしたことがありました。「貴重な植物を守るため」と漠然と考えていたのですが、その理由が明確になりました。子どもたちにも伝えたいと思います。(40代女性)
- 遺伝子の多様性という考え方があることがわかった。全てを理解したわけではないが、考え方の入口の気づきをいただけた。(50代男性)
- 今まで自分の知識が少なかったと思うので、この一日でとても知識も増えていつも通り過ぎてしまうようなところも詳しくお話しをして頂きよかったです。生物多様性をしっかり考えていかなければいけないと思いました。(小6女子)
- 多様な自然を作っていくにも、単純に刈ったり植えたりしてはいけないのだという考え方がよかった。(20代男性)
イベント実施結果
- 参加者数
- 32名(大人31名、子ども1名)
- アンケート回答数
- 27名(大人26名、子ども1名)
- 参加者満足度
- 77.7%
- 実施してよかった点
・講座時間をたっぷりと確保でき、午前中に「遺伝的多様性」も盛り込めたので、午後のフィールドの内容が有意義となった。
・フィールドを座学から近いエリアで選んだため、時間を有効活用でき、スケジュールも効率的に組むことができた。
・講師に前日入りしてもらい、フィールドでどっぷりと翌日の内容を検討できた。
・浜松での初の本格的なレベルの生物多様性の講座だったため、環境保全活動や公園管理などに普段関わっている方々が、活動や仕事の中でぶつかっている課題の解決の一助となった。
- 実施して苦労した点
・短い時間の中で、生物多様性という言葉が持つ広くて深い内容をどう伝えるか?そのカリキュラム作りにとても苦労した。
・講師が普段フィールドにしていない場所でのフィールド見学だったため、事前の講師とのフィールドについての情報のやり取りに苦労した。
- 特に寄付が活きたと感じた点
・各地で実践事例を持つ専門家の講師を、県外からお招きすることができた。
・今後、浜松周辺での環境保全活動や公園管理業務の中に、生物多様性的な視点を盛り込むきっかけができた。