幌向原野を拓いた南幌町:秋の農家巡り(フットパスウォーク約12km)
レポート
前回、ラムサール登録湿地における湿原環境の活用として、大沼国定公園で視察・体験イベントを開催しました。そのときの経験を通して、“南幌らしい湿原環境”を改めて見直し、田んぼ(水田)に着目しました。すなわち、第10回ラムサール条約締結国会議で採択された「湿地システムとしての水田における生物多様性の向上」(いわゆる「水田決議」)は、田んぼがお米の生産だけではなく、爬虫類や両生類、魚や虫といった重要な湿地生態系を支えていること、さらにはその地域の人の生活や健康を支えていると認めています。
南幌町の農家、土井弘一さん、佐藤正一さんは、農薬を使ったお米を食べることができない方のために、無農薬・無化学肥料による水田管理に取り組んでおられる農家です。お二人の農場は、青々とした芝草が生え、虫や魚、鳥が行き来して、歩いて心地よい環境となっています。今回のイベントは、この2つの農場をつなぐフットパス・ウォークとして開催しました。
土井農場では、生産者が生活者の健康を保証するとともに、生活者が生産者を支えるという考え方を教えて頂きました。また、佐藤農場では実際に有機栽培の蒸かしカボチャを味見する機会をいただき、無垢な甘みに参加者から絶賛の声が聴こえました。秋らしい変わりやすい天候でしたが、かつての湿原を開拓した農業によって営まれる、“南幌町の新たな湿原環境”の産声を聞くことができたイベントになりました。
当日のスケジュール
10:00 南幌町ふるさと物産館「ビューロー」集合
・開会式、全体説明
10:15 「ビューロー」出発、フットパス・ウォーク
・かつての幌向湿原を開拓した農地を眺めながら、土井農場を目指します
11:45 土井農場
・土井弘一さんによるレクチャー
12:30 佐藤農場
・佐藤正一さんによるレクチャー及び昼食
13:15 閉会、解散
・希望者でまとまり「ビューロー」に戻りました
実施内容
全体説明の後、「ビューロー」を出発。市街地から農地が広がる郊外へ向かいました。秋の天候らしく、通り雨が何度も通り過ぎるなか、雨で洗われた清々しい空気を吸って歩きます。
シラカバの防風林と田んぼが続く、一直線の農道を歩いて、土井農場に到着しました。
土井さんの生産にかける思いや、その実践としての取組みは、わたしたち消費者からはとてもストイックに見えますが、信頼と安心を持って作っていただいているのだと実感することができました。また、その生産現場で暮らす多種多様な生きものも、そこにいることが当たり前のようであって、いのち溢れる農場といった感がありました。
土井農場から約1キロ離れた佐藤農場へ。通り雨はいつの間にか消えて、秋空が広がっていました。
佐藤正一さんは、息子さんとともに自然環境を活かした農作物栽培に取り組んでおられます。初夏には排水路にフナやドジョウが登り、それを求めてアオサギなどの鳥が訪れ、田んぼではマガモが羽を休めます。いつの間にかマルガタゲンゴロウといった希少種が住み着き、人の健康のために始めたお米の栽培地が、さまざまな生きものの棲みかとなっていたそう。まず美味しく、そして体に良い食べ物を作る苦労や展望を聞くことができました。
このイベントで得られたこと
第1回イベントの在来湿性植物の再生に向けた活動ののち、第2回イベントのラムサール条約を踏まえた湿原の活用方法を学ぶことを通して、第3回イベントでは“南幌らしい湿原環境”として水田を使ったフットパス・ウォークを開催することができました。南幌町にかつて広がっていた湿原は、一部の「幌向湿原保護地」を除いて開拓されきっていますが、新しい湿原として“自然環境を活かした水田”を捉えることで、湿原環境を学ぶ適地としてこの南幌町を見ることができるようになりました。一度は失われた原生の湿原環境を見直すことで、新しい湿原の姿を学ぶことができました。
参加者の声
- 有機農業への関心と食への思いが強く感じることができた。(男性/40代)
- 土井さんのお話が非常に興味深かった。(女性/30代)
- 様々な年齢層の方との交流ができた。(男性/50代)
- 変わりやすい空知の天気を体感しながら歩くのは楽しかった。土井さんの熱い話が聞けて良かった。(女性/30代)
- 農家のとれたてプルーン、スイカ、かぼちゃがとてもおいしかった。(女性/60代)
イベント実施結果
- 参加者数
- 54
- アンケート回答数
- 51
- 参加者満足度
- 52.9%
- 実施してよかった点
・地域の農家の取り組みを多方面から見る機会となったこと。
・湿原環境の保全という目的だけでは出会うことがない参加者の方が多くいらっしゃったこと。
- 実施して苦労した点
通り雨が多い天候もあり、参加者の体力がまちまちであることから、途中で引き返す方が出てしまったこと。乗用車でお送りしたが、開会時に距離の長さをより具体的に伝える必要があったと反省しました。
- 特に寄付が活きたと感じた点
当日の資料として、周辺で自然環境を活かした農法に取り組む農家や鶏卵生産者の紹介を併記した、地域の水環境を掲載した地図を作成することができました。地図には、第1回イベントで巡った「石狩川下流幌向地区自然再生事業地」や南幌町有地「幌向湿原 湿性植物群保護地」も記載しました。