SAVE JAPAN プロジェクト 2021-2022

レポート

Action! Nature ボランティア「若草色の草原へ行こう!~サクラソウ観察とユウスゲ苗の移植活動~」

2022年05月07日(土)実施
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レポート

遅い春を迎えたサクラソウ自生地で、サクラソウや、山焼き草地に咲く早春の花々を観察する自然観察会を行いました。
岡山県内では、自生するサクラソウを見ることができる唯一の観察会となっており、これまで草原保全活動にボランティアとして参加された方にとっては、作業の成果を確認する嬉しい機会となっています。

また、午後にはユウスゲ苗の移植活動を行いました。
ユウスゲとは、フサヒゲルリカミキリの餌となる多年草の植物で、大山・隠岐国立公園の指定植物にも指定されています。
夕方にレモンイエローの花が開く、とても綺麗な植物です。

蒜山地域には、絶滅が危惧されるキキョウ、岡山県で最大のサクラソウ群落、全国で数か所にしか生息しないフサヒゲルリカミキリなど、草原を住みかとする希少な動植物が多く生息・生育しています。
もし山焼きをやめてしまうと、草原は徐々に森林に変わっていき、明るい環境や草原を好む生き物は草原に住めなくなります。
自然に対する人間の働きかけがなければ、このような失われる生態系がある、ということを改めて感じることが出来ました。

当日のスケジュール

08:00 岡山駅からバス出発
09:30 現地到着
10:00 観察会開始
12:00 お昼休憩
13:00 ユウスゲ苗移植活動
16:00 バス出発
18:00 岡山駅着、解散

実施内容

前回の山焼きから1ヵ月が経ち、サクラソウが丁度見頃の5月。
今年度初のバスツアーを組ませていただき、岡山駅からの参加の方、現地集合の方、さまざまな年齢層の方々にご参加いただきました。
快晴の中、本日の流れを山焼き隊の片岡さんよりご説明いただき、スタートです!
1ヵ月前に山焼きした徳山をバックに、片岡さんに解説をしていただきながら徒歩でサクラソウ群落まで向かいます。
真っ黒だった草原には、既に小さな緑がたくさん芽吹いていました。
片岡さんは「山焼き隊」や「蒜山自然再生協議会」の一員でもありますが
「重井薬用植物園」の園長でもあり、自然観察の指導や地域の自然環境の保護活動を行っている専門家です。
専門は、森林・植物・保全生態学で、主に里山などの二次的自然(人間が手を加えることによって形作られ、維持されてきた自然)を研究されています。
サクラソウは、北海道から九州南部までの湿り気の多い草地に生育する多年草で、4~5月頃、可愛らしいピンクの花を咲かせます。
絶滅危惧ではなく、環境省レッドデータブック2020では準絶滅危惧となっており、
厳密には、このままだと絶滅危惧になってしまう、というランクです。
国では準絶滅危惧ですが、岡山県では絶滅危惧1類となっており、1番絶滅のランクが高いことになります。
1類の中でも特に「盗掘されると今にもなくなってしまう可能性が高いもの」を、岡山県希少野生動植物保護条例で指定種としています。
岡山県では、サクラソウ以外にも7種の野生動植物が指定されており、
岡山県庁自然環境課の職員さんから、岡山県希少野生動植物保護条例についても詳しくお話を伺うことが出来ました。

サクラソウを観察するうえで特に注目してほしいポイントは、同じ植物でも花のタイプが2種類ある「異型花柱性」ということ。
雌しべが長い「長花柱花」と、雌しべが短い「短花柱花」です。
長花柱花の花粉が同じ長花柱花に付いても、種が出来ないそうです。その逆もしかり。異なる花粉でないと種が出来ないということですね。
このような花を「異型花」といい、性質の事を「異型花柱性」と植物学用語で呼びます。
これはサクラソウ特有の性質ではなく、他の植物の仲間でも見ることが出来ます。
例えばヤマトレンギョウや、ミツガシワなど。科に関係なく、出来るだけ他植物の遺伝子を取り込むために獲得した性質ではないかと考えられています。
出来る限り異なる個体と遺伝子をやり取りし、遺伝子が多様な方が生き残りやすい。
自分のクローンだけで増えてしまうと、特定の病気にかかった時に、一気に絶滅してしまう可能性が高くなるからです。
(まれに、短花柱花・長花柱花の間くらいのものがあり、種が出来ることもあるそうです。しかしクローンなので遺伝子の多様性は高まらず、発芽率が非常に低いと実験結果が出ています。)
サクラソウを守るためには、両方のタイプが集団に残っていることが非常に大切です。

種は熟すと蓋のように取れ、その中から種が沢山ぽろぽろと散布される様子は、運が良ければ6月の草刈りに参加される方は見られるかもしれません、とのことです。(6月の草刈りにご参加される方はお楽しみに!)

花の特徴はよくわかりました。さて、花粉を運ぶのは誰でしょうか?それは、昆虫です。
サクラソウにやって来て花粉を運ぶのは「トラマルハナバチ」、通称マルハナバチと呼ばれています。
女王バチの口は長く伸びた口をしており、サクラソウ花柱の中に突っ込んで蜜を吸います。
その時に口に花粉が付き、他の花に花粉を運ぶことになります。
種を作らせるためには、サクラソウの事だけではなく、他の昆虫が同じ草原に居ることがとても重要です。
ですので、昆虫の保全も大事ということがよくわかります。

花びらが傷んでいるのは、昆虫が蜜を吸うために花にしがみついた傷跡です。
傷=昆虫が花に蜜を吸いにやってきている証拠。
サクラソウの集団がきちんと健康的な集団だと確認するためには、傷の観察も重要です。
ちなみに、サクラソウの周りには午後移植する「ユウスゲ」もセットで沢山見られました。

サクラソウは種子繁殖だけではなく株別れでも繁殖ができるので、花が咲いている株の周りには小さな株もたくさん生えています。
それらが集団の存続に重要な役割を果たしているんだそう。
観察中は花の咲いていない小さな株を踏まないように、足元に気を付けながら散策を楽しみました。
流れに流されて根付いている株もあり、サクラソウが移動していくので、年々状況が変わっているそうです。
今咲いているところだけを守るのではなく、サクラソウがどこに移動してもいいように、草原全体の保全が必要なんですね。

サクラソウの近くには、サクラスミレもよく咲いています。
日本のスミレの中でも花が大型の部類で、通称「スミレの女王」と呼ばれています。
どこにでも育成しているわけではなく、山焼きなどで管理されている状態のよい草原にしか出てきません。(岡山県では絶滅危惧2類)
これから季節が進むと、ササユリやカワラナデシコ、オミナエシ、キキョウなど、秋の七草とはいいつつ初夏から咲き始めるものも見ることが出来ます。
サクラソウのほかに、
サクラスミレ、アケボノスミレ、アカネスミレなども咲いていました。
蒜山草原のスミレ三姉妹と呼ばれているそうです。かわいいですね。

午前の部で帰られる参加者の方もいらっしゃったので、サクラソウ群落の前で記念撮影です!

お昼休憩のため一度下山する途中にも、さまざまな植物に触れることが出来ました。

さて、午後の部は、SAVE JAPANプロジェクトの活動に協賛いただいている、損害保険ジャパン株式会社岡山支店、宮原支店長の挨拶からスタートです!

ユウスゲの移植場所まで、草原をかれこれ30分ほど歩いて行きます。
標高も少し高く、風がとても気持ちよかったです。

こちらが、今回移植した「ユウスゲの苗」です。

草原の事を語るうえで外せないのが、フサヒゲルリカミキリ。大きさは数センチしかない小さなカミキリムシです。
岡山県内の元指定種ですが、絶滅の危機が去ったわけではなく、種の保存法による「国内希少野生動植物」に現在は指定されています。
国の法律で指定されたことを受け、同じ条例で指定しなくてもよいだろうということで、岡山県内では解除したそうです。
しかし、環境省のレッドリストでは絶滅危惧1類。
似た種類は大陸にも生息していますが、日本固有種であり、野生のものが見られるのは国内では岡山県だけ。
世界でここでしか見られない野生の昆虫ということになります。

写真提供:片岡博行(重井薬用植物園)
さて、このフサヒゲルリカミキリですが、ユウスゲの植物しか食べません。
サクラソウと同じ場所にユウスゲの株も生えていて、食草のユウスゲも大事にしなければフサヒゲルリカミキリは守れません。
サクラソウを守るために草原を守らないといけないし、草原を守るとフサヒゲルリカミキリも守れる。
草原保全をすればどちらも守れるということです。
この写真は、ユウスゲの蕾にとまっているフサヒゲルリカミキリです。

草刈りで自然にユウスゲが増えるのを待っていては間に合わない。
フサヒゲルリカミキリが少しでも増えるように。と、移植活動も行っています。
次回は5月29日、専門家を迎えての「草刈り山の保全教室」というイベントがあります。
フサヒゲルリカミキリの保全をするために、今度はユウスゲが生えている草原の草刈りを行います。
ユウスゲを株を残して刈るため、人力でとにかく株を見つけて、そのまわりを刈る作業になります。
是非皆様のご参加をお待ちしております!

「何らかの対策は必要であるとは思うが、蒜山の半自然草原という自然環境が、人の営みが形作ってきたということを考えれば、近寄りもできないような「保護」をしてしまうのは、草原を保全していくうえでは、中長期的には決してプラスにならないとも思う。
とりあえずは、観察会などを通じて、サクラソウの生態そのものを理解してもらうこと、踏まれたり、採られたりする以上に増やすことを目標に、保全活動をしていくしかないか。動植物の写真を撮る人が、被写体の保全活動にも参加するのが当たり前になればとも思う。」(片岡さんのFacebookより)

参加者の声

  • 今回のボランティアで、環境保護活動を行うだけでなく、沢山の方々と交流ができ、とても良い時間を作ることができました。 これから、受験勉強が始まるのでなかなか参加しづらくはなりますが、受験勉強が落ち着いた頃にまた参加したいと思っています。 とても貴重な体験をありがとうございました!(10代大学生)
  • 往復のバスがあったため気軽に参加できた。今後も蒜山の環境保全活動に参加したい。(10代大学生)
  • 学生がたくさん参加していてよかったです。(50代会社員)
  • ユウスゲの植栽場所に移動する際に、端とはいえ牧草地の草を踏んでしまっていた。今後は参加者が踏まないように注意が必要ということがわかった。(30代公務員)

イベント実施結果

参加者数
28名
アンケート回答数
14
参加者満足度
78%
実施してよかった点
初めてのバス移動でしたが、県南の学生さんや隣県の学生さんに参加いただけてよかった。
それに伴い、高校生の参加も需要があることを知れた。
興味はあっても、なかなか移動が大変なので参加が難しいと思っている人が一定数いると知れた。
実施して苦労した点
特にありません。
特に寄付が活きたと感じた点
バスを手配することができ、なかなか参加が難しい層(車を所有していない大学生・高校生)の参加が増えたこと。
主催・共催
山焼き隊
蒜山自然再生協議会
協力・後援等
特定非営利活動法人 岡山NPOセンター
協賛
損害保険ジャパン株式会社