Action! Nature ボランティア「草刈り山の生き物保全教室」
レポート
草原の足元にはユウスゲの株が大小沢山あり、踏まないように気を付けるには見分け方を知らないと難しい。当たり前のことですが、意識すれば株を傷付けてしまう頻度を最小限にすることも出来ます。
永幡先生や片岡さんのお話を聞き、思っている以上に保全活動は大変なことで、世の中とのギャップも感じました。私たちも含め参加者の皆さんが、それぞれ自分たちが出来ることについても考えるいい機会になりました。
当日のスケジュール
10:30 草原移動、永幡先生、片岡さんレクチャー
11:00 草刈り開始
12:00 お昼休憩
13:00 草刈り
15:00 終了、解散
実施内容

今回の活動は、前回移植したユウスゲの自生地保全のための草刈りということで、草刈り作業に入る前に「蒜山自然再生協議会」の千布さんより蒜山の草原についてレクチャーを受けました。
ユウスゲを餌としているフサヒゲルリカミキリは、例年だと6/10頃に発生します。
出てきた時に食べるものが何もない状態だと、新天地を求めて飛び去り、本来であればどこかに辿り着くことが出来ますが、今は他にユウスゲが生えていません。また、人間が狩りをしなくなったことで最近は鹿が増加傾向にあり、食害に合わないかも心配されていました。近くの恩原高原にもユリ科の花が沢山咲きますが、鹿にだいぶ食べられてしまったのだとか。そうすると木の下に何も生えていない状態になり、人間にとっては歩きやすいけれど、異質な森になってしまいます。
千布さんの後方にある山は、2年前に伐採した山。この辺りは元々は森だったそうで、よく見ると斜面の中には切り株が残っています。森になって時間がたっていなかったこともあり、キキョウや草原の植物がまだ生き残っていて、伐採し火を入れ、劇的に草原が増えた場所でもあります。
「森を切る」ことを悪いと思う方が多いかもしれませんが、蒜山高原の価値は、森ではなく草原。ここは国立公園に指定されており、どんな景観が美しいかなどの評価をし、指定場所が決められています。ですので、草原が維持されないと国立公園の価値も下がることになります。
全国が森になってしまうよりも、草原でしか生きられないもの、森でしか生きられないもの、環境に応じて進化してきたものがいるということが、生物多様性にとってはとても大事なことです。様々な環境がバランスよくあることが大事ということを知っていただきたい、と千布さんは話されていました。
草刈りでは悪者になりがちな萱ですが、(サクラソウやユウスゲなど保護したい植物の日差しを遮ってしまうなど)根元から真っ直ぐ育ち、秋になると2mくらいまで成長し、茅葺屋根や屋根材に質の高い萱として出荷されています。購入者は、文化財を修復する職人さんや、茅葺の所有者など。
萱の生産規模が多いところは草原が広大に残っているということ。例えば、山焼きを行っている熊本県の阿蘇や、静岡の御殿場などもそうです。

今回の講師として山形県からお越しいただいた永幡先生。
写真家でありながら、25年ほど前からこの活動を始められました。
「生物多様性は守らないといけないもの」がやっと社会の主流になってきて、あと25年も経てばもっと追い風は出てくるはず、と話す。
同じように全国で草刈りをしている事例は一定数ありますが、3ha以上刈っているところだと虫たちは生き残っていて、それ以下は絶滅する、という経験を沢山されてきたそうです。科学的な根拠がまだ足りないため調査もしたい。けれど、そうしていると絶滅するのをただ見守るだけになってしまうので、調べたい気持ちを封印して対策に時間を費やされています。
蒜山も夏になるとススキが180~220cmにまで成長するため、かき分けないと人の姿も見えないほどの状態になります。180cmのススキが全面にあるということは、地面に光が全く当たらない状態。オミナエシや他の植物は1mが限界です。このような植物たちは株はギリギリ生きていても、結局花を付けることが出来ないのです。永幡先生たちが4年間刈り続けてきた結果、ススキの丈もようやく下がってきました。

「どれくらいすれば守れるのか」の目標はまだまだ甘く、厳しい状況であることに変わりはない。ボランティアで楽しく草刈りをしようとすると、どうしても0.5haほど、現状で出来るのはこれくらいだ、となってしまう。そのためにはどうすればよいか。それは、多くの方が活動に参加してくださることです。
また、永幡先生は集落の方たちが行ってきた草原の管理方法を忠実に再現することをどの地域でも心掛けているんだそう。
蒜山の集落では、年間の草刈りは3回。1番草(5月末~6月)、2番草(7~8月)、3番草(9月)。1番草は丁度今頃に刈っています。昔は刈った草を牛に背負わせるため、束ねられるまで成長している必要があり、水分条件がいい(谷底など)と成長が早いため、このような場所が1番草として刈られます。そして、2番草は別の場所を刈ることになります。9月頃になると、1番草のあたりが束ねられるくらい成長しているので、1番草と3番草は同じところを刈ることが多いそうです。
ススキは刈る時に茎が10cm残ると、養分を蓄えてまた伸びてきてしまうため、根元ギリギリで刈る必要があります。植物たちも競争しているので、ススキがなくなると次は萩が元気になってきて、しばらく放っておくと萩ばかりになってしまう。そこに火が入っていれば、地上部がリセットされるので競争もリセットされるということ。

ユウスゲに掴まるフサヒゲルリカミキリ(写真提供:重井薬用植物園)
フサヒゲルリカミキリは、大山、升水ヶ原、山口の冠峠にも、ユウスゲがある草原に昔は生息していました。
生体系にはそれぞれ食べる植物が決まっており、森が広ければ広いほど、様々な植物があり食べ分けることが出来ます。逆に森が狭くなると、食べるものがない生物は絶滅してしまう、ということになります。
フサヒゲルリカミキリの場合は、ユウスゲだけを食べるのでユウスゲが生えている場所をずっと渡り歩いて暮らしていました。蒜山では一度20匹にまで激減して、これまで6年をかけて現在100匹ほどに増えたそうです。
「6,000本で60匹、100匹にしようと思ったら10,000本のユウスゲが必要。我々の経験からだと、絶滅の心配がない数値は500匹以上。
1年で天敵が増えたり、天気の影響などで急に20分の1にまで激減することもある。今年は大丈夫だと思っていたら突然居なくなる。調べてみたら天敵の数がぐっと増えていたり。天敵も餌にしている虫の数が減ると、食べるものがなくなるので減少する、の繰り返し。500匹まで増やすには、まだまだ時間がかかる。10年以内に500匹まで増やしたいと模索している。」
絶滅危惧種を守る、増えた、という美談なニュースはよく見かけますが、「絶滅しました」と、ニュースになることはありません。日本国内では絶滅種が年々増えていますが、それがニュースになることはほとんどありません。
「増えた」「救われた」ばかりがニュースになり、「ボランティアがイベントをやれば、生物は守れる」という、とても甘い世の中であること。
厳しい中で、それでも救わないといけない現実があります。
そんな中でも、蒜山ではフサヒゲルリカミキリが絶滅確定の20匹しか居ないところから、100匹にまで戻すことが出来ました。フサヒゲルリカミキリがかなり厳しい状況であること。もっと安定するには、ユウスゲが10,000本以上咲かないと難しいこと。そのために、かつての里山の草刈りの時期を忠実に再現していること。そのような現状を知っていただきたい、と参加者の皆さんに話されました。

さて、次はユウスゲの株の見分け方を片岡さんからレクチャーいただきます。慣れていない方だと一見ユウスゲとススキは見分けがつかないのですが、葉っぱや株本をよく観察するとすぐにユウスゲを見つけることが出来ます。

左がユウスゲ、右がススキです。
ユウスゲの葉っぱは、広く縁が波打って、しなっとしています。もう少し大きくなると葉っぱが折れて垂れている状態になります。一番わかりやすいのは根元を見ること。12単のように葉っぱが折り重なって出てきています。

ススキの株本は完全に軸を包んだ筒状の茎なのに対し、ユウスゲは花の茎が延びてくるまでは茎がないのです。
葉っぱが折り重なっているので、株本を確認すれば全く違う植物だとよくわかります。

ユウスゲの特性として、乾燥に強く、湿度が高い場所を好みます。
なぜかというと、ユウスゲは大きくなると黄色い根っこが太くなり、養分と水分をある程度溜め込むことができ、少々雨が降らなくても大丈夫。
1か月くらい雨が降らなくても実は結構平気なんだそうです。すごいですね。例外的に種から芽生えた直後(まだ株が小さい状態)だと、根っこに溜められる養分や水分が少ないため、順調に大きくなれるのは水分条件がいいところになります。ある程度大きくなれば乾燥した場所でも大きくなれる植物です。今回もすり鉢状になっているところにユウスゲの株がたくさんありました。

こちらのヒキヨモギは、岡山県内で見えるところが今はここだけになってしまったそうです。昔は沢山の草原に生えていましたが、現在はほとんど見ることが出来ません。草原性の半寄生植物で、環境省では絶滅危惧種になっていませんが、岡山県のレッドデータブックには載っています。

本題の草刈りが始まりました。主に、ユウスゲの日照を邪魔するもの(ススキ、ワラビなど)を手刈りしていきます。
ユウスゲの草原を刈り払い機で刈る際、ユウスゲの株を探しながら刈ることは至難の業です。先にユウスゲの株を見つけ、その周りを手刈りしておくことでユウスゲの株を刈ってしまうことを防ぐことが出来ます。株の周辺50cmほどを手で刈り、目立つようにしておきます。


昔は全て手カマで刈っていたそうです。地域各地で土地に合わせた効率のよい使いやすいカマがあり(蒜山にも「蒜山ガマ」と呼ばれる大振りの物があります)昔は地元の鍛冶屋さんたちがカマも作っていました。しかし草原の草刈りをしなくなったため、道具とともに文化もなくなってしまいました。
「草原は全国各地一緒」と思われがちですが、生えているものも違いますし、使っている道具も違います。地形と斜面の方向でも違ってきますし、成長度合いも違います。そうして草原の中に多様性が生まれます。
草原活用の方法が多様だったり、気候変動を受けてリズムが変わったり、草原の使い方にムラがあると生物は多様になります。
一様に綺麗というのは決していいことではなく、ムラがあるということは多様であるということ。ワラビが多いところにはそれなりの理由があり、ない場所には水分条件が違うなど理由があります。牧草地のようにどこまでも同じような草原は一見綺麗ですが、どこまで行っても同じ条件の環境しかないということです。生物にとっては、あまりいい環境ではないですよね。

理解することで、私たちボランティアも「こうしたらいいかな」と考えながら活動が出来れば、更に効果的な活動が出来ると思います。
ご参加頂いたみなさま、暑い中お疲れさまでした!
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座学講師
永幡 嘉之(ながはた よしゆき)
自然写真家。環境ジャーナリスト。1973年兵庫県生まれ。信州大学大学院農学研究科修士課程修了。山形県を拠点に動植物の調査・撮影を行う。絶滅危惧種の保全に奔走する中で、里山を次世代にどのように伝えるかを模索し、若者らとの仕組みづくりに取り組む。著書に『里山危機』(岩波ブックレット、2021年)、『大津波のあとの生きものたち』(少年写真新聞社、2015年)、『巨大津波は生態系をどう変えたか』(講談社、2012年)など。
このイベントで得られたこと
ユウスゲの特性を理解し、どのような環境が好ましいのか知ることが出来た。
参加者の声
- 広大な広さの草原の草刈りをこつこつとされているお話を聞いて驚きました。その結果も何年もたたないとわからないそうですが、やらなければすぐなくなってしまうということでした。少しでも力になればうれしいです。(20代)
- 都市生活者が参加し、意識や生活を変容するスイッチを入れる場にできそう(30代)
- 絶滅危惧種救済にかなりの労力が必要になることを知り、驚きました。(40代)
- 生物多様性についての知識が増えた。(40代)
イベント実施結果
- 参加者数
- 9名
- アンケート回答数
- 7名
- 参加者満足度
- 45%
- 実施してよかった点
- 保全活動に参加することに意味がある(回数を重ねる)と参加者の方々に認識いただけたこと。
- 実施して苦労した点
- 特にありません。
- 特に寄付が活きたと感じた点
- 山形県より講師を呼ぶことが出来、岡山県以外の事例も含めてお話を聞ける機会になった。
メディア掲載
- 主催・共催
- 蒜山自然再生協議会
山焼き隊 - 協力・後援等
- 岡山NPOセンター
- 協賛
- 損害保険ジャパン株式会社